治郎さん鬱妄想
飯が食えるぞ
という言葉につられてフェンリルに入ったはいいが
厳しい監視の目、学習、性格矯正プランなど
まるで拘束されているようで日々反発して過ごす。
そんな時、上司から「両親が生きている」と聞かされる。
ずっと、きっと生きているはず、両親に会いたい、と思っていたため
すぐにその情報に食いついた。
大人しく矯正プランを受けるという条件と引き換えに内部居住区へ赴く。
渡された住所を見ながら進むと、うっすらと覚えている昔の街に似ている。
どきどきと高鳴る胸を押さえながら「渥美」と書かれた一軒家を探して回る。
とうとう見つけて家の前で佇んでいると玄関から少年が飛び出て来た。
ブロンドに癖っ毛、赤茶の目をした10歳くらいの少年だった。
自分のそれと瓜二つの。
母親と父親から受け継いだ、特徴とそっくりの。
鳥肌が立ち、声をかけるのを抑えることはできなかった。
「あの…渥美、さんですか?」
少年は不思議そうに首を傾げてから角治郎を見て笑う。
立てた笑い声は幼いころの自分の声に驚くほど似ていた。
「うん、僕、渥美角治郎だよ」
訳も分からずフェンリルに逃げかえり、どういうことだと上司に詰め寄る。
その後詳しく調査した結果の報告:
10年前、街をアラガミに襲われ散り散りに逃げた家族
共に逃げていた夫妻は遊びに出て帰ってこないままだった息子は
もうアラガミに食われたものだと思い込み、日々嘆き悲しんだ
そんなときに妊娠が分かり、精神状態を案じながらも出産
生まれた子供は死んだと思っていた子供、角治郎に瓜二つだった
精神状態がもとより不安定だった母親は「角治郎は死んでいなかった」
と思い込んで“角治郎”と名付け、角治郎として育てはじめ、今に至る
浮浪者としてゴミにまみれ、何をされても何をしても耐え
ただただいつの日か両親を探すためだけに泥水を啜って生きてきた。
それなのに両親は探しもせず自分を諦め、しかも代わりを見つけていた。
事件の後に生まれた弟はきっと自分の存在も知らず
内部居住区内で幸せに暮らして来たのだろう。
アラガミの襲来さえなければ、自分がそうして来たところにのうのうと居座り…
両親を憎み、弟を恨みもするが、憎み切れず恨み切れず悶々と過ごす。
生きていたことを告げようものなら、弟を本物の角治郎だと信じ込んでいる
狂いかけの母親は完全に壊れてしまうだろう。
名乗り出るわけにはいかない。
名乗り出られるはずがない。
自分はあの日、アラガミから逃げ切れずに死ぬべきだったんだ。
それからはアラガミに食われて死ぬことだけを考え続ける。
後に正式にゴッドイーターとなりアラガミと対峙する。
これで、失敗して食われればすべてつじつまが合うのだ。
そう思うとなんだかほっとして、神機を投げ出し駈け出そうとする。
しかし泥水を啜っていた頃の醜く生きようとあがく自分が顔を出す。
死にたくない死にたくない死にたくないと叫ぶ。
顔をあげた角治郎の瞳孔は開き切り、口元には笑みを浮かべていた。
「…よし、さっさと片付けちまおうぜ」
裏ジロ君いらっしゃーい
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